水時計と妖精の翼/りゅうのあくび
 
水時計に溶けていた
血液の雫があって
時計の器の外には
一枚の翼が堕ちている
静かな痕跡がある
誰しもの夢のなかで
真夜中にも時間を報せる
いっぱいになった
聖なる水時計は
透明な水滴を溜めていたはずで
血液が混じっていることも
傷ついた翼が堕ちていたことも
不思議なことであって

傷ついた翼の報せを
届けるために
真夜中に
医者のところへと
祈るように急いでいた
ずっと強い雨が
降り続いている

水は地球のあらゆる
生命の源になる
ちょうど今朝には
雨の降り続く夜明けに
水時計のある集落の家で
赤ん坊が誕生したばかりだった
助産師も徹夜で汗をかきながら
きっと傷ついた翼は
幼き命の誕生を
祝福している
何処かへといなくなった
妖精の影とともに

[グループ]
戻る   Point(9)