静かな時流/たけし
道沿いのあの川が
氾濫したかどうかして
すべてを呑み込んでしまったのだ!と気付きさらに茫然自失
ひたひたと自分の足を濡らして来る水の感触も忘れ
相変わらず渦巻く海のような河を見ているうち
そうかこの雨ももうここ5年は降り続いているから当然といえば当然か
そう冷静になりつつ見続けていると
かつての我が家が幾つかの家と共に流されていく
ああと嘆息して空を思わず仰ぐと
黒ずんだ雲の層が一息で引き裂かれ
深紅に輝く巨大な球体
水色の大洋を掻き分けるようにして
奥底から
ゆっくりゆっくり浮かび上がり
同時に現れたあの森をススススッと吸い込んで
一瞬だけ
色とりどりの紅葉の虹を大洋に掛けました
後には只、
すべてを(もちろんこの私も)溶かし呑み込んで
水色の大洋が
細かく波打ち蠢くばかりなのです。
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