うつうつ/そらの珊瑚
雨の夜
国道には死があった
帰り道を急ぐ車の
その一台一台に生があるその対極に
或いは
その隣りに
ぴくりとも動かない人間の脚はまるで
精巧なマネキン人形の部品のよう
アスファルトに散らばったガラスの欠片が
ヘッドライトに照らされるたびに
美しく光ってみせる
死に急いでいるのだろうか
人は
急がなくとも死ぬし
急がなくとも
人は
どこかに帰る動物なのに
どこかで眠る動物なのに
車内はエルトンジョンの声であふれていて
白いハンドルは鬱を吸ったように重い
闇に取り付けられた窓に滲んでいるふたつ月
世界のコンビニの常夜灯も
うつうつと
そんな夜が明けるのを待っている
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