一部に/あおい満月
剣のような針が
私の背中を追いかけてくる。
私は追いやられている。
70年前に首都や広島、
長崎をめちゃくちゃにした、
機銃掃射もこんな風に逃げ惑う人々を
追いやったに違いない。
赤い爪がビニール袋を手に、
私の部屋のパソコンをめちゃくちゃにする。
食い散らかされた部屋は、
小さな鼠が気絶している。
私はどこにいても、
一人で、板挟みだ。
※『夜の中の夜』という文章の髪に触れた。
私も夜の中の夜にいる。
指に絡みつく螺旋が
永遠に開くことのなくなる前の目になって、
細長い砂漠を見ている。
追いやられた私を救ったのは、
あの大きく澄んだ泉だ。
私は泉に向かって
ありったけの、
鼓動を搾る。
鼓動は花弁の汁になってあの喉を潤すだろうか。
私は雨になって土に染み込んで
その身体の一部になろう。
※柳美里著エッセイ集『魚が見た夢』より。
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