ある死への過程の記録/たけし
 
二十代後半、夏の三千メートルの岩陵から墜ちた時のこと−

次から次に
岩にぶつかりながら
肉体の感覚は麻痺していく一方、
意識はより鮮明となっていく

宙を舞い墜ちながら次第、
次はあの岩にこういう角度でぶつかるなということが事前に予測できるようになり
事実そうなって
吹き出る血や粉砕していく肉体の骨の音が内から鮮明に響き
恐怖は全くない一方
ただただ冷静沈着な意識の明度は増すばかりなのだ

不思議だなあとは一度は思うが
もはや物体と化した肉体が破壊されていくのを他人事として観るばかりで
おかしなことに本当の自分は
その壊れ行く肉体との一体感をドンドンドンドン離れながら
数秒の物理的経過がやけに間延びしていき
最後は沢筋の銀色に燦めく色彩が
透明の間を縫って視界に捉えられたその瞬間、

全てがスパークして光に解体され渦巻き

ああこの世界は光の凝縮で成り立っていたんだな

と認識した瞬間に
意識が肉体と再び合体し呑み込まれるようにして無くなった。

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