写真/あおい満月
 
きこえるものが
みなすいとられていく
みえるものが
みなかすんでいく。
私のなみだを誰も知らない。
ティッシュ箱を並べてみても
素通りされてしまう。
だから私は、
道化になるしかなくて
月夜の窓辺で、
缶を片手に目を潤ませる。

私は無力なのに
片言で話し掛けられた言葉を踏みつける。
私は非力なのに、
胸の奥に溜まった怒りははかりしれない。

焔がひりひりと舞い上がる。

落とした卵が、
焼き上がるような
炎天の続くアスファルトの上で
聴きたいことばは書き消されて
見たい景色は霞んで
声にならない叫び声は夕闇を孕んで、
月が産み落とされる。

その刹那の光景を
収めた一枚の写真は
暴風の晴れた空の下に佇んでいる、
私なのか、誰なのか。
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