住宅街/あおい満月
 
(孤独を知りたい)
その声のする方へ
足を向けると
ビル街から住宅街に迷い込んだ。
そこでは人々の匂いはあるが、
人の姿はなく、
窓辺から聴こえてくるやかんの音と、
乾ききった洗濯物が
微風に揺れている。
旅人になったこの身体から蒸発した汗がわき、
皮膚は赤く火照っている。
自販機は青い顔をしながら、
背比べをしている。
ボタンを押せば、
砂がこぼれてくる。

(誰かがいる)

振りかえると、
誰もいない縁側の隅から、
小さな男の子が覗いている。
男の子の目は私を素通りして、
向こう側の車が停まっている影で

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