棘/あおい満月
私の身体のなかに生えた棘が
別の身体を攻める。
けれど、隣り合わない色があるように
せめぎあう棘はない。
だから、時々、
鏡の前で呟くのだ。
私は美しいと。
汚れてヘドロで、
ドロドロになった
この頬さえも愛しいと。
目の前で崩れていく
積み上げた紙の束が階段になって倒れても、
誰も元の通りには
拾い上げてはくれないのだから。
冷めたコーヒーカップのなかのロールシャッハが
月を孕んでいる。
小さくなる苺が、
胸元でつぶれて
甘酸っぱくなる。
そして穏やかな甘さが
唇にひろがる。
棘はそうして、
風になびく髪になって、
夏の夜空を撫でる。
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