キッチン/そらの珊瑚
 
枝から青くふくらんだ
健やかなる実をはずす
茶色いしみのようでいて
何かを主張している風の
そんな模様を持つ実は
捨てた

捨てたあと
なぜかもう一度この手に取り戻し
親指と人さし指で
はさんで力を加える
そこにあったのは固い実ではない
やわらかな感触のあと
得体のしれない細胞が
壊れあふれてきて
豆を食べてぬくぬくと育っていただろう小さな命を
わたしは潰し
この指の腹に刻印した
わかっていたのに
わかっていたのに
それでも
そこへ在ることを確かめたかったのだ
(もしくは何もないことを確かめたかったのかもしれない)
どちらにしても確かめずに捨てるなんて出来なかった

鍋の湯がぐらぐらと沸騰してしまう季節の前に

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