私小説/がらんどう
』でも読むかと何気なく思った。
ガタンとドアが鳴った。郵便受けに何かが落ちる音。牛乳でも新聞でもないのは分かっていた。どちらもとってないからだ。金を払ってもいない人間に無料で牛乳を配るほど慈悲は世に溢れてはいない。郵便物が来るという当てもあるわけではなかったが、ダイレクトメール会社は俺の名前を名簿に登録するくらいには勤勉だった。無駄なことにも労力を払うという意味においてだ。つまり俺の元に届くダイレクトメールなんてものが存在していたということだ。だが、ダイレクトメールを受け取ったからといって、そこで宣伝されている何かを買うなんてありえないことだ。かつて有閑階級の顕示的消費なんてことを書いた学者
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