路上の歌人   /服部 剛
 
君は今日も、渋谷ハチ公前の
路上でギターを掻き鳴らし
スクランブル交差点を行き交う
無数の靴音の、彼方には
紫色の夕空と…ひとすじの雲があり

警察に止められ、君の路上の歌声は
3曲で終わった

――3曲目が、よかったよ
軽く君に手をあげてから
人波に紛れた僕は
街を彷徨い、やがて日は暮れ
道玄坂の路地裏に潜りこみ

「Hard Rock Cafe」の座敷で
ピンク色のスプモーニを、一杯

黒褐色のポスターに
いつの間にか世から姿を消していた
カート・コバーンの澱んで澄んだ、瞳の奥は
この世の果てを射抜いたようで
僕の心臓は畏怖に…震え

今、店内にはスプリングスティーンの
「涙のサンダーロード」が流れている
そう――僕等は、あの頃から探していた
そして、これからも

この脳髄に、夜明け前の雷鳴が閃(ひらめ)く
あの歌を  





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