アボ太郎/もり
。おじいさんはあまりの出来事に、小水を漏らしてしまいました。
日焼けした肌がやけにまぶしく、彫りの深いラテン系のオッサンは、全裸で直立不動のまま、突然叫びました。
「ムチャスグラシアス!ムッチャムッチャグラシアス!!」
そして家の戸口をいきおいよく開け、猛ダッシュでさらに川下へと駆けていってしまいました。
興奮冷めやらぬおばあさん、
恐怖に打ちひしがれるおじいさん、
どちらも震えながら、沈黙が流れ・・。
ようやく平静を取り戻したおじいさんが口を開きました。
「あれは何・・・、まぁよいわ。ばあさんや、褌の替えをとっとくれ」
しかし、おばあさんはまだ開いたままの戸口から、夜の帳を見つめています。
〈まるで少女のようじゃ。出会ったころのような・・〉
おじいさんは、その横顔を見ながら思いました。そして、もう一度だけ言いました。
「ふんどし」
おばあさんは、ゆっくり、噛みしめるように目を閉じました。
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