普通の愛/もり
アで当たった。
夕美の家へ続く坂道をゆっくりと登りながら、急に胸がつかえた。
きっと理由なら、涙の数以上にあるだろう。
坂道をすれ違う、母の膨らんだお腹を少年が撫でている。
老犬を、少女がかばうように散歩させている。
誰もが、小さな愛をその身体から滲み出していて、
痛かった。でも、
言葉には飽きていた。
泣いてもいいだろうか。夕美。きみの胸で。どうしたの、柄にもなく。って笑ってくれるだろうか。そうでないと、泣けない気がする。
チャイムを押すのに、煙草2本が費やされた。
ドアにうっすらと、夕陽がさしてくる。パタパタッと、スリッパの音がする。カチャリッ
「おはよう」
寝ぼけまなこの夕美が照れ笑う。
早いよ。僕の花が笑う。
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