さくらんぼ泥棒/りゅうのあくび
 
隣の病棟から切手のない
自分宛ての手紙が
一通だけ病室の枕元に
精神科医から届いている
ふくらんだ封筒には
誰が入れたのか
さくらんぼが
ひと房入れてあって
何とか父を救いたいと云う手紙の
返事だった
記憶の病気であれば
治療は任せて欲しいと
記してある

桜の花びらが散ってから
まだ春の風が強い
とても永い雨の
季節がやってくるのは
まだ先の或る日に
突然倒れて治療するため
入院を決めた
病室には年上で
親友と同じ名前の
患者がいて女友達となる

ちょうど精神科の
こころある勤務医に
父を何とか
助けてほしいということを
伝える必要があっ
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