難破船/あおい満月
 
満たされない。

口のなかで唾液と一緒に、
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、
食べ物が回転する。
仕舞いには自分の指や腕も食いちぎる。
骨が現れて、
最後に目と耳だけが残る。
私の前には紙もペンもない。
見えない気だけが、
ことばを吐き出していく。

求めるものは、
世界という求めぬもの。
雑踏のなかで、
誰もが素通りしていく。
そのなかで誰もが
何かを食いちぎり生きているものがいることを忘れるな。
左に傾いた背骨の階段が、
絞りきれない雑巾を絞る。
残った水滴に映る海が、
手を伸ばす大きな光を丸呑みして
咽頭の滝に落としていく。

滝の下では、
難破船に暮らす
夜の生き物たちが
黄金色の目をして
満月を占っている。
私が食散らかした
食べ物が転がる床の隅で。


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