傘のいらないお話/もり
毎年その色を変える紫陽花に、
かたつむりは言いました。
「きみは色々と人を楽しませるし、
すてきだね。うらやましいよ」
少し口先をとがらせて。
紫陽花が言います、
「あなたは立派なお家を持っていて、
すてきじゃない。
しかも移動式だなんて、すごいわ」
かたつむりの顔に一瞬、
日が差したように見えました。
けど、すぐまた顔を曇らせて
「でもぼく、のろまだし・・」
少し沈黙が続き、
ふたりは雨の音を聞きました。
紫陽花が空を見ながら言いました。
「ゆっくり景色を見てらっしゃいよ。
わたしの代わりに。
それをまた来年、話してちょうだい」
かたつむりは相変わらず
口をとがらせたまま、
雨に涙を隠しました。
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