椛の手/服部 剛
「死」というものは、笑えぬもの。
五年前の冬
八十九年の生涯を、閉じた
婆ちゃんについては、笑えるもの。
在りし日の婆ちゃんの
面影が今も座る食卓の席に
遺影を置き
孫の僕は冗談みたいに、呟ける。
「いつのまにやら、すっかり
写真の中に、納まっちゃって
一体何処へいったのやら… 」
*
晩年の病室にて、見舞う、僕の帰り際
背中越しに呼びかけた、あの日の一言。
「あなたの嫁さん・ひ孫がみたい…」
*
五年後の春
在りし日の婆ちゃんが
いなくなって久しい食卓の椅子に
会ったことない嫁さんは
ちょこん、と三歳のひ孫を乗せた。
人より染色体が一本、多く
まだ発語しない、ひ孫は
写真の中で嬉しそうな
ひい婆ちゃんの
微笑みへ――卓上を、這い…這い…
小さい椛(もみじ)の両手を
目の前で
ぱっ!と、開いた
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