横浜/ヒヤシンス
 

 すっかり改装された応接間に白い光が差し込む時、
 僕は思い出の中で横浜の匂いを嗅ぐ。
 まだ何も知らなかったあの頃の幸福は
 クラリネットの甘い音色が包み込んでいる。

 庭に抜ける大きな窓ガラスの向こうに色づいたアジサイが見える。
 手入れの行き届いた祖父の庭にはいくつもの魂が遊んでいる。
 祖母の台所仕事をしている音が聞こえる。
 そして幼い僕は一人きり小さなソファーに腰をかけている。

 幸福が妬みに変わるときもあるのだ。
 僕がそうだった。
 そしてそれを知る者は誰もいない。

 人生も半ば、僕の横浜はセピア色に染まっている。
 僕は一人きりが好きだ。
 たまにはそんなことを言っても良いのだろう。
 
戻る   Point(6)