空中ブランコの夢/服部 剛
黒いしるくはっとの彼は
遠い過去から訪れた
謎の旅人
呆けたように、宙を見る
彼の目線のその先は――
昔々のサーカス小屋
観客席を埋め尽くす
鰯の面した人々は
小さい口をぽかんと空けて
一人の男を仰いでる
中天に、逆さ吊りで、腕を組み
泰然自若で かっ! と見開く眼球に
マンネリズムの歴史の色を
蘇らせる、威力あり。
(場内しーんと静まり返り)
鰯の群れの只中で
麦酒片手に赤らむ、僕は
とくり、とくり…
高鳴る胸に思わず、片手を
あててみる
※この詩は「残響―中原中也の詩によせる言葉―」
町田康(NHK出版)の「サーカス」を参考に書きました。
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