きみがいた、きみといた。/あ。
 
きみを覆うのは、世界中のあらゆる瑞々しさ。


この土手をもう少し行くと踏切がある
車どころか人だってあまり通らない
斜め前には所々が赤茶色に錆びた鉄橋
電車が通るたびに、じ、じ、じと振動する
きみの好きな場所だ
少し離れた草むらに腰を下ろして
カンカンと音が鳴り始めるのを待っている
横顔に表情はあまり濃くない
逆光にほほの産毛が細く光り
汗ばんだ癖毛はゆるく波打っているやがて電車が通過すると
艶やかに見据えた黒目が
動きに合わせてちょろちょろと震えるように追いかける


幾台分もの会社員や学生を見送り、立ち上がる
土で汚れたお尻を払ってやると
珍しく手のひら
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