hidari/楽歌
 
薄汚れた右手で意味の無い言葉を書き連ねている。
B4の紙が深夜を迎える前に、僕はそれを突き破るだろう。
柔らかな筆先は優しさだ。
優しさが描き出すものが、いつだって優しいはずはないんだって、僕はとうに知っていただろうに。
停滞する反対側にいるはずの君を、見つめていたあの日。
梅雨、前夜。

雨音はまだ聴こえない。
ルシールは哭いている。
震えているのかい?

ねぇ、ひだり。
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