森を出る/カワグチタケシ
雪が解けて木々がいっせいに芽吹く。地表の下は地下だ。すべてが地下だ。
湿った落葉が陽に照らされて、ゆっくりと乾燥していく。その下は陽の届かない
地下だ。
耳をすますと、小さな音が聞こえる。落葉の下で、昆虫たちが目をさまし、
眠たそうな顔で、触覚をこすりあわせる音が聞こえる。
昆虫たちは次第に覚醒し、触覚をこすりあわせる音は単位になる。音は素数。
正確に不規則に束ねられ、いくつかの歌が生まれる。
種と種のあいだで、おなじ昆虫の雄どうしで、生存を賭けた争いがはじまる。
森は昆虫たちのバトルフィールドだ。
僕らはこの森を守ることも救うこともできない。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)