夕暮れの丘/服部 剛
僕は、今から四十年前
勾玉(まがたま)のような白い種として
母の胎に宿りました。
それがこうしていつのまにやら
大人になって、独歩して
思考しては、言葉を発し
地上の日々を営んでいます。
夕暮れになると、僕は丘に立ち
遠い山波の黒い輪郭に
目を細め
このいのちの源に
ひと時――思いを馳せるのです。
あの日、自らの意志を越えて
世に産声をあげた
私(わたくし)という者が
どうやら歓ばしい
世界に一人の者であるという
静かな予感の芽生えを
この胸に、久しく思い出すために。
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