987/mizunomadoka
 
7

列車は一時間遅れで駅に着いた
駅員に辻馬車の手配を頼む

行き先を告げると
あのお屋敷にはもう誰も住んでおりませんが
と御者が問うので

私は構わないと頷き
門の所までで良いと伝える

馬車は森を抜け
人気のない道を走っていく
冬は明けたのに痺れるような寒さ
トランクから膝掛けを出して
汚れた窓から外を見る
もう夜のように暗い

目を閉じて揺られる
鈴が鳴り
アーチが見えたと御者が言う


8

門は閉ざされている
鎖で巻かれ錠が下りている
不安げに私を見つめる御者に
銀貨を二枚渡す

馬車の明かりが消えるまで見送って
カンテラ
[次のページ]
戻る   Point(4)