のろいのために/片野晃司
 
構えてすいと腰を下げてみたり、扇子に隠れてみたりして、手のひらをつるりとそらして上へ向ければ赤みさしてやわらかく土あたたまりまして、ほら手のひらをついっと裏返してしらじらと差し出せばひんやりと凍えまして雪、とんと足踏み鳴らしまして、扇子のひと振りでそこらの奴らをなぎ倒しまして、ぐったぐったと切り刻みまして、ついでにいとしいあのひとのはらわたかっさばきまして、思い出やら後悔やら詰まったせつない心臓あたりのすっぱい器官をいつくしみ引きちぎり投げちぎりまして、炎にあぶって塩振って漬けまして江戸前寿司に握りまして、花柄のお皿に載って何皿も何皿もレールの上をいとおしくいとおしく流れていきまして。
上り列車
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