傷跡は春に包まれて/りゅうのあくび
 
真新しいパンプスを
履きながら歩く
晴れわたる春の路地裏
靴づれはひりひりとして
ドラッグストアに立ち寄る
店員へ傷跡に貼る
ばんそうこうを下さいと云う

    *

少し無愛想に
ぽいっと置かれた小箱の医薬品
要らないとは云えずに
かかとを痛みで尖らせながら
彼女はこころの奥から
痛いと叫ぶばかりで
ばんそうこうを
ふたつ分だけ貼る
途中のターミナル駅で
待ち合わせをするために

    *

百貨店のすぐ目の前で
靴問屋が国産靴はたくさん
在庫一掃市みたいに
セールをしている
ちょうどふたり分だけ
未来の足跡を
買い占めながら
鉄道
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