名残り・・・について/服部 剛
久々に一人で実家に帰る、晩
何処か名残り惜しく
幼い息子の肩を抱きつつ
嫁さんに少々草臥れた足裏を揉んでもらう。
*
久々におふくろの味で腹を満たした、朝
何処か名残り惜しく
注いでもらった湯呑の茶を、味わい
「今度は皆でうまい蕎麦でも食おう」と
見送る母ちゃんに言い残し
フーテン気取りで、実家の玄関を開く。
(きっと――全ての人の出逢いと別れは
互いの実家を行き来した
昨日と今日の密かな郷愁に似て…)
*
平日の人気(ひとけ)無い喫茶店で、一人
嫁さん・息子・両親の顔を
想い浮かべ
ずずず…と珈琲を啜り
愛読書の頁を、開く。
*
本の中は、とある料亭の戸を
がららと開いた、夜の小路(こみち)
風にゆらめく暖簾(のれん)を背に
初老の作家と、同級生等は
それぞれに白い吐息を昇らせて
しみじみ…それぞれの家路に着く
滲んだ背中が三つ
夜の帳(とばり)の向こうへ、消えた。
戻る 編 削 Point(4)