あしたのりんご/たま
 
 テーブルの上に、あした買ってきたりんごを置いてあると言う。
 もちろん、そんなもの私には見えない。母だけが見ることのできるりんごだった。

 今朝も雨が降っていた。桜の季節はいつも雨に邪魔される。と言っても、花見は好きじゃなかった。久しぶりの休日だし、すべては雨のせいにして春眠を味わう。たまには御褒美がほしい発育不良の大人だったから。
 九時すぎに目覚めた。
「かあさん、おはよう」
 薄暗いリビングの灯りも点けないで、母は窓辺のテーブルに腰かけていた。
「……圭子、まだいたの?」
「今日は休みなの。ね、ゆうべ言わなかった?」
「ううん、聴かなかったわよ」
 頑固なひとは痴呆に
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