四番目の息/宣井龍人
 
四番目の息が聞こえる。
父の息。
母の息。
私の息。
そして、聞こえる。
他には居るはずがない誰かの息が。

まだ幼かった私は、父母に挟まれ、狭い二階の一室で、毎夜訪れる暗闇と遭遇していた。
昭和三十年代の東京下町のどこにでもある街並みである。
疲れてしまって香りがしない畳や一汁一菜ともいうべき食事。
だが、前を向いていた、希望に満ち溢れていた。
未来はこの手で作るのだ、街行く誰もがそう思っていた。

そんな彼らにとって、夜は絶好の休息だ。
今日も目一杯働いた彼らは、寝床についたと同時に、死んだように眠るのだ。
もう永遠に目覚めぬかのように。

私の父母もそんなな
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