無重力ラボラトリー/カワグチタケシ
砂場の上には葡萄棚があって
夏の日差しから僕を守ってくれた
その砂場も葡萄棚もいまはもう存在しない
わたしたちの休暇の話をしましょう
再会の日には
手をつないで
草原を見下ろす丘のベンチで
雲が生れる瞬間を見つけましょう
そのときふたりを結ぶ細い線を
探査衛星が横切り
銀河から沈黙が降りてくる
沈黙のあいだも
無重力のラボラトリーで
多肉植物たちが徒長しつづけている
やがて通信は再開し
おやすみが言いかわされる
満ち足りた気持ちで彼女は
無重力の眠りにつく
彼は踵をすり減らし
地下鉄の改札へと降りていく
Contains samples from W.D.Snodgrass & V.v.Goch
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