津軽の雪/月形半分子
津軽の雪は 太宰の雪だ
無尽にふる、そのひとつ、ひとつに
太宰の言葉が刻まれ
わたしの目の、心の、そのおくに、真っすぐにふり落ちる
「生まれて、すみません」
といっては、淡雪がふいに淋しいわたしの肩に、髪に、やさしくふれて
「なんとかなる」
といっては眠りにつくまで、ぼた雪の、静かに屋根にふりつもる
「革命も恋も」
と叫んでは私の変わりに豪雪が冷たい暗い海に身を投げつづけ
そうして、「かなしきことになって居りますと」
さびしい裏町の細い薄明かりの外灯の下に、私が立てば
細雪の一緒にうつむいて凍えてくれる
津軽の雪は、太宰の雪だ
「嘘だけはつかなかった」と
真っ白に、ただ真っ白に私に降り積もる
津軽の雪は、太宰の雪だ
※「」内の文、斜陽、津軽、晩年、他より抜粋
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