仏様が降らす雪/月形半分子
 

真っ赤な夕焼けに羽虫とぶ春のある日、母が泣いていた。父が昼前に家を出ていってから、ずっと押し入れに顔を突っ伏して声を殺して泣いていたのだ。わたしはそれを幼稚園からひとり帰り、見ていた。

それから私たちは、父の帰らぬまま、言葉少なく日々を過ごした。背の高いひまわりが影をまっすぐ海に伸ばして過ぎていった夏も、庭木の桜の葉が冷たい風にふれてはじまった秋の日々のなかでも。わたしたち母と子は、まるで目隠し鬼が書いたへのへのもへじのように、泣くでも笑うでもなく、まるでどこかに気持ちを置き忘れてきたかのように暮らした。


そんなある日、幼いわたしは、重たい灰色の空の上に仏様の影を見たのだっ
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