渡良瀬川の石/石川敬大
 
川でひろった
この石は
世界でたったひとつの石
と 田中正造が新田サチに語った後いく枚の暦がめくられただろう
古典的ロマン主義と反駁しても意味はないが
世界にはたくさんの川
たくさんの川原に
たくさんの石がころがっていて
どれひとつとしておなじものはない
その単純な事実だけがある

近代文明の完成形の
電車には
失くした耳をさがしあるく挙動不審の兵士がいて
帰る家がないと泣きじゃくる若い女
自暴自棄になって何度も自殺未遂する売れない小説家
動かなくなった蒼白の赤ん坊に乳房をふくませる母親
スマホから目がはなせない女学生
ネクタイをゆるめてバカヤローとつぶやく酒く
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