声/カワグチタケシ
 
から夜に近づく街を歩きながら
僕らはにわかに
信じがたいような熱心さで
声を捕らえようとする

錆びた無人の改札をくぐりながら
電線の影を拾う


その残響を連れて
僕はひとりの部屋に戻り
風呂場で足の指を洗う

***
テレビのスイッチを入れる
副題のない日々
十月、夜の新宿
街はどこもかしこも夏みたいだ

蛍光灯の淡い影を連れて
地下街を歩いていく
人ごみのなかからひときわ弱い
波動を見つけだし、チューニングする

午後のセントラルに始まり
朝、東の果てに消える
とぎれとぎれの声に耳を澄ます

かつて彼女がそう呼んで
今はもう呼ぶことのない名前を追いかけて
声は次第に遠ざかっていく
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