アンゼリカの正体/そらの珊瑚
その時、千春は生乾きの毛をぶるぶるっとさせる猫みたいに、震えた。フキは、ばあちゃんと暮らした平屋の裏庭に、わさわさと生えていたのだ。
おそらくフキは、自我を手放してもいいほど、砂糖の虜になりたかったのだ。長年の疑問が溶けたからといって、相変わらず素敵な世界はケーキの上にしかないのだけれど、今夜、ばあちゃんのために、価値あるたくさんの蝋燭(年を足すって何にも代わらない価値だって思うの)を掲げたケーキを、施設のみんなと分かち合う。
誰も自分の正体など知らない。今夜ここはおとぎの国。
そうでしょう? アンゼリカ。
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