夕鶴奇譚/ただのみきや
 
なのかも忘れ果て

いまあなたは「与ひょう」と自分を呼びながら
わたしを「おつう」と呼びながら
最後の正気を喰ってしまおうと
一行の狙いを定めかねていたところでしょう

でも今 見えない糸が切れました
あなたの詩作の情熱を繋いでいた糸が血管と一緒に
いまこの詩は解かれます
行は裂け単語はばらけてやがて無秩序な文字の塵へ

すぐに文字すら識別できなくなり
何も感じなくなるでしょう
現実世界では家族はとっくに愛想を尽かし去っています
考えられない感じられないことはむしろ幸いかと

いま文字のからだが文字の心がぱらぱらと崩れ
あなたも あなたを書いた者も それを書いた
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