幸福の秤 /服部 剛
あばずれ女が10万ルーブルの札束を
暖炉の炎に、投げ込んだ。
自らの純愛を置き去りに
去りゆこうとする女の狂った有様に
身を震わせる白痴の男の
頬にはひと筋の涙が伝い…
暖炉の周囲を野次馬の面々は囲み
がやがや呟きあっており
あばずれ女の瞳にも
一滴の涙は光り…
人々の背後に、偶然訪れた旅人の僕は
暖炉の中に手を突っこむ勇気も無く
喧騒から、少し離れた場所に立ち
考える――愛と金を量る
幸福の天秤について。
ものの5分もしない間に
10万ルーブルは
暖炉の闇に
煙を昇らせ、姿を消した。
※この詩はドストエフスキーの「白痴」を題材に書きました。
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