都心に雪がふると/石川敬大
都心に雪がふると
もう あともどりができない
地方都市は
いよいよ寡黙になる
川を
はさんで
魚たちは遡及する
ときおり鋭利な水性植物になって川底でひかる
風の攻勢が強まる
と
海波はさらに香りを増して
港湾施設を
イナゴの大群のように襲うだろう
メタリックを軋ませる刺客がふいに斬りつけてくるように
博多湾は
双つの翼をひろげる
島影を
額に淡く写しとっている
商店街はすでに南北にのびきってしまったので
あした
の
昏睡を迎える支度に忙しい
博多ラーメンの店先では暖簾がしきりにうなだれて
影のようなカラスが鳴き交わし
ひとが
呼吸をととのえる前にせわしない雲に
急かされて
ゆく
書き記した言葉なら
ずっと記憶にとどめておこう
と
おもう
都心に雪がふると
つめたく鋭利な海風が頬を斬りつけてくる
きみは
そんな日も
ある覚悟をもって
定められた
きょうのバスにのってゆく
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