ショパンの声/服部 剛
――どうすれば、私は私になれるのか?
日々の舞台を演じる自らの
配役について、想い巡らせていた。
老舗の名曲喫茶にて
ショパンの夜想曲を聴きながら。
ぷつぷつ…と、ノイズ混じりのレコードの
遠くに回転する(過去)の中で
今もピアノを弾いている、ショパンは
薄暗がりの店内で、時のまにまに囁いた。
――私のピアノになりなさい…
――私があなたを奏でよう…
夜想曲の最後の一音が、店内に響く。
曇り硝子から射す日が、頬を照らす。
私の思念は一度、空になる。
――ショパンのピアノに、なってみよう
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