茜の記憶/石田とわ
薄暗い台所で
小さなボールを抱え
温めた牛乳を昔ながらの泡立て器で
けんめいに泡立てる
しゅんしゅんしゅんと薬缶が
今にも飛び出しそうに呼んでいる
戸棚からインスタントコーヒーを
ひっぱりだし、ゆっくり熱湯を注ぐ
泡立った牛乳をスプーンですくい
たっぷりとのせてゆく
薄暗い部屋は夜に近づこうと暗さをまし
コーヒー片手に電気をつけようと
ふと外を見れば
稜線が茜に染まっていた
何かを思いだしそうになり、
慌てて部屋中の電気をつけた
コーヒーは熱くて苦かった
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