十二月の疼痛/そらの珊瑚
 

私は影さえない小さな石ころだった
金網の中のプールの
濁った水の中に
満月はおごそかに落ち
やがて来る朝のための供物になる

彼の名前は知らなかった
知りたいとも思わなかった
何かを持ってしまうことに
ひどく怯えていて
遠くからあっかんべえをした

あれが恋だったのかどうか
今もわからないけれど
長い時間
あの風景が
心に棲みついていた

おそらく私は
誰にも悟られないように泣いていた
生理は始まっていて
確実に女ではあったけど
血を流す痛みはなく
虫歯の痛み
もしくは
誰かを傷つけたり傷つけられたりした
痛みの方が切実だった

冬が
やまいだれを被ると
いともたやすく
私は
あの地点に戻ってしまう
時間が企んだ喪失は
うずくような痛みを伴って
なつかしくて
まだ何も持ってはいないし
知ってない
ついそんな気になって
顔を歪ませながら
少し微笑んでみせる






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