映画/北橋勇輝
 
よく通う小松座の前で
あの子が煙草を吸った
白い息を溜め込んで
何か言いたげな顔をした

適当に並べられた蕾を見て
どれが冬に咲く花か分かるか

マフラーに顔を少しだけ埋めて
かじかんだ手を元に戻そう
冬の朝がやけに辛いのは
君の制服が綺麗だから

子供たちがはしゃぐ声に
耳を澄まして ペダルを踏んで
君といつまでも会話出来ないのは
僕が喫煙席に行けないから
君と僕が会話出来ないのは
僕が観る映画と君が観る映画が
少し違うものだから

ガラスに流れる朝露が
透明な冬を映してた
何も起こらない映画を
暗い部屋で一人観ていた
君と僕が小松座の前で
鉢合わせしたときも
白い息吐きながらすれ違う
目を合わせずに
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