キッチン/そらの珊瑚
軟らかすぎて
もはや美味しいのかどうかもわからないほど私の口に馴染んでいたが
竹子の口には合わなかったらしい(竹子は盗み食いの名人だった)
「いったいぜんたいどうなってるの? この軟らかさって度を越してるわ
そろそろ私は赤ちゃんじゃないって言ったらどうなの
ものごとにはしおどきってものがあるじゃない」
と言われたけれど
それならば私はなんなのだろう
まさかお姫様にはなれないし、せいぜいがマッチを売り歩く少女だろう
しもやけの手はひどく痒くて時折かきむしって血だらけにする
あわれな少女
祖母の編んだ腹巻はちくちくして嫌だったけど
ずれた愛情といえども宝物だと知っていた私が
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