キッチン/そらの珊瑚
かつてキッチン(というよりは台所)は裸電球で照らされた寒い島だった
幼い私は台所のことを「だいどこ」と呼んで入り浸っていた
窓からは川へ下る坂道と隣家
(といっても音なんか聞こえないくらいには離れていて、おもちゃのピアノをじゃんじゃか鳴らしても誰も咎めなかった)
の煙突と、冬でも元気な竹林が見えた
竹は地下でつながっていて
竹の子は赤ちゃんで
いうなればあれらはみな家族だよと祖母が言う
とにかく竹だけは使いたい放題で、
それらはかまどの火を熾すための空気を送る筒になったり、
ちょっとした野の花を生ける花瓶になったり、
楽器になったり竹馬になったり、
祖父が酒を飲むためのコッ
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