茶碗のゆげ/服部 剛
一つの苗を手にした、僕は
じぃ…っと屈み
水面(みなも)に手首を突っこんで
柔い土に、苗を植える
どんなに風が吹こうとも
どんなに雨が降ろうとも
どんなに陽が照ろうとも
いたずらな童子が
裸足のまんまで踏み荒らそうと
翌朝、のこのこ僕はやってきて
再びひとつの笛を、手に
じぃ……と屈み
震える手で、苗を植える
(いつの日か――必ずや)
暖かい灯のともる
とある家庭の夕餉にて
父と母のまなざしをそそがれる
幼子の楓(かえで)の両手に包む、茶碗から
しゅるしゅるゆげを、昇らせる
絵画の情景を――夢にみて
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