「きざむ」/小夜
 
なんどでも振り返り
なんどでも悔やむ
選ばなかった道のこと
なりえたかもしれない自分のこと
なにひとつ定かな記憶もないのに
分かれ道の向こうの小さな光が
やけに瞬いてまぶたに刺さる

けれど
あそこで違う道を選んでいたら
今日あなたには会えなかった
向こう側の私が輝かしくても
こちらの私がふがいなくても
あの日 あの道を選んでいたら
今日あなたには会えなかった

地下鉄の中
夜の頂点も過ぎて
アナウンスの口調にさえいらだつ人たち
隣の人を人と知らずに
たどり着いた扉へなだれ込む人たち
ため息を飲みこみながら
それでも
その人たちの選ばなかった
もう一
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