机上のワインー珈琲店・エルにてー /服部 剛
遠藤文学講座の後に、皆で語らう
この店で僕は、受洗を決意した。
この店で僕は、息子の障がいに泣き崩れた。
四ツ谷の地下の珈琲店・エルは
奇遇にも
遠藤先生の命日である、今日
四十五年の歴史に、幕を下ろす。
人それぞれの想い出達を
そっと宝箱に仕舞うように
生涯、僕は忘れない。
この店で分け合った数々の痛み
幼い頃の原爆で
母を亡くした娘が大人になるまでの
哀しい物語
若い娘を病で亡くした、暗闇を
打ち明けた母親の頬に伝う
ひとすじの涙
生涯、僕は忘れない。
在りし日の遠藤先生が
体の無い姿で、ふらり
この店を訪れるように
待ち侘びて…
今日も机に置いた
献杯のワイングラスを
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