燃える男/服部 剛
 
白球は時に、燃えている。

ふいに巡ってきた
体調不良選手の、代役出場。

3回表、2アウトランナー2塁のピンチ。
1年中ぱっとしなかった、彼の
守るレフトの後方に
打者の打った白球が
虹を描いて、飛んでくる
斜め後ろに走りつつ、
だんだん大きくなる球をめがけて、飛ぶ!
さし出す…グラブ!

何万人もの拍手が一斉に響く
東京ドームの外野席で
僕も立ちあがり
100メートル先で脈うつ、彼に
届くよう拍手して、叫ぶ

「やのけんじ〜…!」

3回表、ベイスターズの攻撃を終えて
マウンドからベンチへ戻る、後輩投手は
くるり
ふり返り、一礼する。
ぱん
と手を重ねて彼はベンチの奥へ、入っていった

ジャイアンツカラーのオレンジの血液が流れる
僕の両目に白球は炎と燃えて…
フェンス越しに遠のいていった、彼の
ユニフォームに透けて
白球はめんらめら…燃えていた。  






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