月下美人/愛心
「月は太陽の恋人なの」
彼女はそう言ってまっさらな掌を翳した
毎日の家事仕事で荒れた肌は
赤くささくれて皮が剥けている
パパはいないから
ママはお仕事だから
あたしがおうちで働くの、と
真っ黒に伸びた髪を垂らして
少し恥じらうような調子で
自分の掌を隠すように、胸に抱え込んだ
月明かりの下で
彼女の黒髪に
天使の輪が映る
そっと手に触れる
ざらついた感触 撫でると
蚊のような声で「ごめんね」と呟いた
彼女を
美しいひとを
真っ黒な陰で包んだ僕は
夜に似ている
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