懐中の海辺/瑞海
懐かしいこと思い出しました
ずっと前にこの街から
ずっと離れたところにいた時
唯一の連絡手段が電話であったこと
思春期のタブー
お喋りな母に電話の内容を盗み聞きされること
だからこっそり抜け出して
海辺近くの電話ボックスまで
100円握りしめ
錆びた自転車走らせて
小さな個室に心臓の音が反響して
ろくにボタンが押せない
1人だからといって
ろくに背中も押されない
やっと10ケタの番号
帰り道唱え続けていた番号
押して押して
真っ白になって
気づいたら時間切れ
お喋りな母の堪忍袋の尾も切れ
次の百円は
まだ16歳の貯金箱の中
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